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これを読めば丸わかり!モンテッソーリ教育とは?

モンテッソーリ教育とは?特徴や考え方、歴史まで完全解説

公開日:

近年さまざまなメディアで取り上げられ、日本でも広く認知されるようになったモンテッソーリ教育。その認知度の高まりに対し、モンテッソーリ教育の本質や目指すことは、日本ではまだ意外と知られていない部分です。

モンテッソーリ教育と聞くと「知育」や「脳育」といった言葉を想起する方もいらっしゃるかもしれませんが、その本来の目的は「勉強ができるこどもを育てる」ことでも「脳を育てる」ことでもありません。モンテッソーリ教育が目指すのは、こどもの自立・自律を育む手助けをし、自己実現や他者貢献ができる人間を育むこと。そしてその先にある平和な社会です。

従来の教育に代わるオルタナティブ教育のひとつとしても挙げられるモンテッソーリ教育。こちらのページでは、その概要や歴史から、「敏感期」や「お仕事」といったモンテッソーリ教育独自の考え方やアプローチまで、詳しく解説していきます。

モンテッソーリ教育の歴史

始まりはこどもの観察と療育研究

マリアモンテッソーリ

モンテッソーリ教育は、イタリア出身の女性医師マリア・モンテッソーリによって、今から110年以上前に築かれました。当時ローマの精神病院で働いていたマリア・モンテッソーリが、療育研究をきっかけに、こどもの観察を通して確立した科学的な教育法です。

モンテッソーリ教育では、「こどもの発達段階や欲求に応じた適切な環境があれば、こどもは自ら発達することができる」という「自己教育力」があると考えられています。マリア・モンテッソーリがこの力の存在に気付き始めたのは、発達に遅れがあるとされていたこどもたちを観察していた時のこと。こどもたちが、食事で出たパンくずを集め指先でこねる様子を見て、こどもの「手を使いたい」という生命衝動の強さ、感覚的欲求の存在に気が付いたのです。

スラム街で築かれたモンテッソーリ教育

お仕事とする子ども
「お仕事」をするこども

そこでマリア・モンテッソーリは、イタール(※1)やセガン(※2)など、観察と実績に基づいて障害児の(今でいう)療育をしていた先人の知見から示唆を得て、発達に遅れがあるとされるこどもたちや知的障害児に対し、手を使うなど感覚的な欲求を満たすことができる玩具を用意します。すると、環境を整えたことでこどもたちの知的水準が高まるという効果が見られました。

マリア・モンテッソーリはその後、1907年にローマのスラム街サン・ロレンツォに保育施設「子どもの家」を開きます。ここで定型発達児に対し同様の方法を試みたところ、彼女のアプローチは再びこどもたちに好影響をもたらしました。マリア・モンテッソーリは、この「子どもの家」で日々こどもたちを観察しながら環境を改良し、独自の教育法を築きます。これがモンテッソーリ教育の始まりです。

以降、モンテッソーリ教育を実施する場所は「子どもの家」と呼ばれるようになります。マリア・モンテッソーリは、息子マリオ・モンテッソーリの助けを得てモンテッソーリ教育を体系立てることに成功し、モンテッソーリ教育は世界へ広がっていきました。始まりから110年以上が経つ現在、モンテッソーリ教育は、誕生から成人に至るまであらゆる年齢層にわたり、世界140か国以上で行われています。

※1 ジャン・イタール(1774〜1838年)はフランスの医師であり教育者。ろうあ研究や障害児研究で知られる。
※2 エドゥワール・セガン(1812〜1880年)はフランスの医師であり教育者。障害児研究で知られる。

モンテッソーリ教育ってどんな教育?

モンテッソーリ教育とは

マリアモンテッソーリ

モンテッソーリ教育の歴史を見てもわかるように、モンテッソーリ教育の始まりはすべてこどもにあります。大人が何かを与えるのではなく、こどもの姿を観察することで彼らの欲求に気が付き、環境を整えていく。そんなこども主体の教育法です。これは、大人主体の一斉保育と呼ばれる現在の日本における一般的な教育との大きな違いのひとつです。

この考え方の根底には、先ほどもあったようにモンテッソーリ教育で考えられている「自己教育力」があります。これは発達段階や欲求に応じた適切な環境があれば、こどもは自ら発達することができるという考え方です。

また、モンテッソーリ教育では、こどもは「誕生〜6歳、6〜12歳、12〜18歳、そして18〜24歳」という4つの発達段階を経て発達していくとされています。さらに各発達段階の中でも、時期に応じ異なるニーズを持つと考えられています。特に誕生から6歳ごろまでのこどもは、生活を通しどんな言語や文化にも適応する力や、ある時期に特定の力を著しく発達させるというこの時期にしか見られない特徴があります。モンテッソーリ教育では、この特定の力を獲得しようと強いエネルギーが出る限られた時期のことを「敏感期」と呼びます。

こうした考え方に基づき、こどもたちが持っている力や可能性を最大限に発揮し、自分のペースで自分らしく人格形成していくことができるようサポートしていく。そのためにも、大人が適切なタイミングで適切な機会を用意することが大切だとされています。このようにモンテッソーリ教育は、こどもたちの生命を援助する教育でもあるのです。

モンテッソーリ教育が目指すこと

こうした基本原則をもとに、モンテッソーリ教育が目指すのは以下のことです。

モンテッソーリ教育が目指すものは生命の援助、自立と自律、平和な社会

生命の援助

モンテッソーリ教育は、こどもたちには先天的に学ぶ能力があり、適切な環境と教育者(大人)によりサポートされれば、発達上のニーズに沿って最大限の可能性を発揮できるという前提に基づいています。人間の発達を助け、人格形成をサポートすること、すなわち「生命の援助=Aid to life」という考え方はモンテッソーリ教育の要のひとつです。

自立と自律

モンテッソーリ教育の最終目標は「自立」「自律」です。これを成し遂げ自己実現を果たし、自分が属するコミュニティやそこにいる人々など他者に貢献する人間を育てることを目指しています。そのためにも、こどもたちが適切な時期に獲得すべき能力を獲得していけるよう、自然な発達を援助することが必要です。

平和な社会

マリア・モンテッソーリは、平和のためには「争い」ではなく「調和」が必要だとし、「自立し他者を尊重できる人で成る集団(社会)には調和が生まれ、平和な社会につながる」と考えました。彼女は生涯を通し平和教育の大切さを訴え続け、オランダにある墓地には「親愛なる全能のこどもたちへ、人類と世界に平和をもたらすため、私に加わり団結するようお願いします 」と刻まれています。モンテッソーリ教育が個々のこどもに対する教育を通じて目指すもの、それは他でもなく平和な世界なのです。

マリアモンテッソーリのお墓
マリア・モンテッソーリのお墓

モンテッソーリ教育の特徴

モンテッソーリ教育が実施される環境には、一般的な教育環境とは異なる特徴がいくつかあります。クラス構成をはじめ、活動の行い方や「お仕事」と呼ばれる活動、また一般的な教育と異なる点などについて具体的に見ていきましょう。

クラス構成

モンテッソーリ教育のクラス構成

赤ちゃんから大人になるまでの間、こどもたちはいくつかの発達段階を経ていきます。心身発達の特徴はこの発達段階によって異なるため、こどもが過ごす環境は、各発達段階に応じた適切なものである必要があります。モンテッソーリ教育のクラス編成はこの考え方に基づいており、さらに各クラスともさまざまな年齢グループで構成された異年齢クラスになっているのが特徴です。こどもたちは異年齢間で互いに助け合い、学び合って過ごします。

0〜3歳:インファント・モンテッソーリ・プログラム(Infant Montessori Programes)

ムナリモビールと赤ちゃん

誕生から3歳までのプログラムで、以下4つのクラスによって構成されています。

出生前クラス Ante-natal classes

妊娠中の女性やそのパートナーを対象とし、出産や新生児のケアなどについて学ぶクラス。

幼児・両親クラス Toddler and Mother classes

母親や父親とこどもがともに参加し、月齢に応じた適切な環境設定やこどもの観察の仕方、活動の提供方法などについて学ぶクラス。

ニド Nido

生後2〜14ヶ月までのこどもを対象としたクラス。

インファント・コミュニティ Infant Communities
モンテッソーリ境域の言語活動をする子ども

運動、言語、自立などの発達援助に重点が置かれた、生後14ヶ月〜2.5/3歳のクラス。

日本では、主に出産前クラスや幼児・母親クラスは子育て支援の文脈で行われ、こどもが通う保育施設等では0歳児の「ニドクラス」からスタートすることが多いです。もちろん、保育園が開催している入園前の子育て支援として幼児・母親(両親)クラスもあるため、各園に問い合わせてみるといいかもしれません。

ニドクラスで過ごしたこどもは、歩行が完了するとインファント・コミュニティ、通称「I.C(アイシー)」クラスへと順次移行していきます。

3〜6歳:プライマリークラス Primary

モンテッソーリ教育プライマリー

3〜6歳のこどもが過ごすモンテッソーリ教育の環境は日本では「プライマリー」と呼ばれることが多いです。プライマリーの前のインファント・コミュニティで時間を過ごしてきたこどもたちは、2歳半〜3歳の間に、こどもの準備ができ次第こちらのクラスに移ります。(※教育内容は、教育5分野、また教具の項をご参照ください。)

6〜12歳:エレメンタリー Montessori Elementary(小学校)

6〜12歳の児童期のクラスです。6〜9歳と9〜12歳の2つの年齢グループに分かれて活動することもあれば、全員一緒に活動を行うこともあります。(※教育内容は、教育5分野、また教具の項をご参照ください。)

12〜15歳:セカンダリー Montessori Secondary(中学校)

12〜15歳を対象としたクラス。このクラスはドイツ語で「大地の子」という意味の「Erdkinder(アードキンダー)」とも呼ばれます。寄宿舎制の農業学校のような場所をイメージしていただくといいでしょう。

Hershey Montessori School
Hershey Montessori School:https://hershey-montessori.org/programs/adolescent-community/

モンテッソーリ教育では「青年期は傷つきやすい時期」と捉えられており、自然に親しむことや健康的な食生活を送ることが必要だと考えられています。学業のストレスを感じるよりも、自己表現をしたり、社会の仕組みや自分の行動に責任を持つことを学ぶ機会を持つことが重視されているため、このクラスのこどもたちは農場に身を置いて学びます。さらに、農業のみならず、動物の世話をしたり、作った野菜を売るなどのマイクロ・エコノミー活動(小規模の経済活動)をするなどし、経済的に自立することも覚えていきます。

15歳〜:ハイスクール Montessori High School(高校)

15歳になると高校クラスへ。ここでは学業に取り組み、学校卒業資格を取得します。中学、高校が別々になっている学校もありますが、先程のモンテッソーリ中等教育のErdkinder(アードキンダー)として中高一貫で6年間通う学校もあります。

The Montessori Place
The Montessori Place:https://themontessoriplace.org.uk/

中学校や高校がどのような様子か気になる方はこちらの2校のサイトをご覧ください。

イギリス「The Montessori Place」https://themontessoriplace.org.uk/
アメリカ「Hershey Montessori School」https://hershey-montessori.org/programs/adolescent-community/

自己選択で自分の活動を選ぶ

モンテッソーリ教育では、教師がこどもに活動を与えるのではなく、こどもが自ら活動を選択します。「これがしたい!」という自分の内発的動機づけに従って興味のある活動を選び、心ゆくまで取り組むことができる。そんな環境が用意されているのも、モンテッソーリ教育の特徴のひとつです。

お仕事

モンテッソーリ教育数教育

モンテッソーリ教育が実施される教育環境では、各年齢グループの特定のニーズに応じた活動が用意されています。モンテッソーリ教育では「こどもが欲求に従って行う活動は、こどもにとってのお仕事」と考えられており、それぞれの活動に目的があるのも特徴です。

発達段階に合わせて用意されたさまざまなお仕事は、必ず各発達段階に見合い、その段階でのこどもの興味関心や発達課題がかなうように設計されています。例えば、モンテッソーリ教育の原点でもある2.5〜6歳のプライマリークラスでは5つの教育分野で構成されており、教具と呼ばれる特別な道具が使用されます。

一般的な教育とモンテッソーリ教育の違い

一般的な教育とモンテッソーリ教育のもっとも大きな違い、それは「大人主体か、こども主体か」という点です。

一般的な教育現場では教師(大人)が活動内容を決めて指導しますが、これは大人主体の教育です。一方モンテッソーリ教育では、自己教育力という考え方に基づき、こどもが自分で活動を選ぶこども主体の教育が行われます。具体的には下記のような違いが挙げられます。

一般的な教育とモンテッソーリ教育の違い

こどもの発達をサポートするモンテッソーリ教師

ここまで見ると、「こども主体=何でもこどもの好きなようにさせる」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。

モンテッソーリ教育が行われるクラスには、通常、訓練を受けたモンテッソーリ教師と教師をサポートするモンテッソーリ・アシスタントがおり、こどもたちを観察しながら活動に導いています。導く際には、こどもがやりたいからといって無秩序になんでもやっていいのではなく、そのクラス(コミュニティ)において安心と安全が担保され、心地よく過ごすためのルール(制限)が必ず設けられています。その制限の中にある「自由」がこどもに保障されているのです。こどもたちは、モンテッソーリ教師によって準備された環境やその制限の中で、限りなく主体的に活動を行います

環境を通してこどもの育ちを助けるモンテッソーリ教育の関係

モンテッソーリ教師は、通常、各国の教師(保育者)資格を保有の上、モンテッソーリ教育特有のトレーニングを受けています。教師は「こどもの自己発達の過程をサポートするガイドまたはファシリテーター」とされ、一人ひとりのこどもの発達を観察し、ニーズを認識し、必要に応じて援助をします。こどもが「やりたい」という気持ちになった時に活動を紹介するなど、こどもと準備された環境をつなぐのがモンテッソーリ教師の大切な役割です。

モンテッソーリ教育の考え方

モンテッソーリ教育

ここまでは、誕生から思春期までの大きな流れとともに、モンテッソーリ教育の全体像を見てきました。「モンテッソーリ教育=乳幼児期だけ」という印象をもっていた方にとって、「こんなにも長期でのプログラムがある教育なんだ」と感じるきっかけになったかもしれません。

ここからは、乳幼児期のこどもに見られる「自ら育つ力(自己教育力)」について見ていきましょう。この力を信じ、ガイドすることこそがモンテッソーリ教育のベースといえます。

自ら育つ力(自己教育力)

お花に水をあげる子ども

誕生の瞬間から、赤ちゃんは周囲の情報や体験のすべてを介して世界を探ろうとし始めます。自立・自律を目指し、周りの人々とコミュニケーションを取ろうとし、手を使い、目の前の活動に集中し、何度も何度も同じ動作を繰り返す。こうして、こどもたちは誰に教えられることもなく自ら発達していくのです。

モンテッソーリ教育では、発達段階や欲求に応じた適切な環境があれば、こどもは自ら発達することができると考えられており、これを「自己教育力」と呼びます。さらに、特に0〜6歳のこどもたちは以下2つの特殊な学び方を持つと考えられています。

吸収する精神

モンテッソーリ教育

マリア・モンテッソーリは、0〜6歳ごろのこどもたちが周囲の情報を何でも吸収することができる「吸収する精神(absorbent mind)」を持っていることを見出しました。この力によって、こどもたちは自分が生まれた世界に適応し、個としての自分をつくっていくことができるのです。

「誕生からの6年間、こどもたちは努力しなくとも楽しく学ぶことができる」というマリア・モンテッソーリの言葉の通り、こどもたちは生活を通し、自分が生まれた場所や時代の文化、言語、習慣といった情報をつねに吸収しています。

中でも0〜3歳のこどもたちは無意識的にこの力を発揮しており、良いことも悪いことも選別なしに吸収していきます。一方3〜6歳のこどもたちは、自分が獲得したいことを尋ねたり考えたりするなど、意識的に周囲の情報を吸収するようになります。

敏感期

敏感期とは、特に0〜6歳の間に見られる特定の力を獲得しようと強いエネルギーが出る限られた時期のことです。敏感期には「運動、言語、感覚、秩序、社会性、小さいもの」という6種類があると考えられており、それぞれ異なる時期に現れ、一定の時期を超えると徐々に消失していくというのが特徴です。その時に見られるこどもの姿や時期について見ていきましょう。(※年齢はおおよその目安です。)

敏感期一覧表

6つの敏感期

輪に紐を通すこども
言語の敏感期

【時期】胎内〜6歳前後
【役割】言語の力を獲得する。
【特徴】話す、書く、読むなど、言語に対し強い興味を示す。

運動の敏感期

【時期】10ヶ月〜4歳前
【役割】大きな動き(粗大運動)と小さな動き(微細運動)を獲得する。
【特徴】身体や手を使って「動きたい」という強い衝動を見せる。

感覚の敏感期

【時期】胎内〜4歳半前後
【役割】感覚器官を洗練させ、情報を識別する力を獲得する。
【特徴】触る、嗅ぐ、味わう、見る、聞くなど、五感を使うことへの欲求を見せる。

秩序の敏感期

【時期】0歳〜4歳前後
【役割】自分がいる環境の秩序を獲得し、環境に適応していく。
【特徴】「いつも同じであること」に強いこだわりを示す。

社会性の敏感期

【時期】2歳半〜6歳前後
【役割】自分がいる環境の慣習やマナーなどを知り、環境に適応していく。
【特徴】周囲の人とかかわったり、ルールを知ることへの欲求を見せる。

小さいものへの敏感期

【時期】1歳半〜3歳前後
【役割】観察する力を獲得していく。
【特徴】小さいものを見つけたり、拾いたがったりする。

モンテッソーリ教育の5分野

モンテッソーリ教育の5つの教育分野

クラス構成の項でご紹介したように、モンテッソーリ教育を実践する教育施設では、発達段階によってクラスが分かれています。その中でも、主にプライマリークラスにあたる幼稚園や保育園のモンテッソーリ教育実施クラスでは、「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「数教育」「文化教育」という5つの教育分野を実践するのが特徴です。

プライマリー以前のインファントコミュニティクラスでは「日常生活の練習」「言語教育」、そして自分を創るための主体的な活動を、さらに年齢が低いニドクラスでは「5つの教育分野」に入る以前の活動を実施します。いずれのクラスにおいても、こどもが興味関心や発達段階に従って主体的に活動を行うというのもまた大きな特徴です。ここでは主にプライマリークラスで行う5つの教育分野について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

日常生活の練習

植物に水をあげる子ども

「教育分野」というと、「勉強」「教科」といった言葉を想起する方も多いかもしれませんが、乳幼児期のモンテッソーリ教育の教育分野としてまず挙げられるのは「日常生活の練習」です。これは文字通り「日常生活に必要な動作を練習する」分野で、こどもたちが環境に適応し自立に向かうことができるよう、さらに人格形成の基礎づくりができるよう手助けすることを目的としています。活動内容は発達段階により異なりますが、たとえば以下のような目的を持った活動があります。

  • 縫いさし、切り紙などで「手と目の協応」を高める。
  • イスやトレイを運ぶなどし「基本的動作」を養う。
  • 鼻をかむ、上着を着るなど「自分に配慮すること」を学ぶ。
  • お花を生ける、動植物の世話をするなど「環境に配慮すること」を学ぶ。
  • ロールプレイを通した立ち振る舞いから「気品と礼儀」を学ぶ。
  • 線上歩行やサイレントゲーム(静粛の練習)で「運動の調整」力を高める。

このような活動を通し、こどもは徐々に自分の身体をコントロールする力を高めていきます。同時に、集中すること、また「できた」という満足感や達成感を得る経験などを繰り返すことは、こどもの人格影響にも大きな影響を与えていきます。

感覚教育

ピンクタワーと男の子

私たち人間は、感覚器官を使ってさまざまな情報を受け取り、その違いを認識しています。モンテッソーリ教育の感覚教育では、五感である「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」を使った活動を繰り返すことで感覚器官を洗練させていき、こどもたちが世界の基本的な情報を理解していけるよう手助けをします。

この活動で大きな役割を担うのは、ひとつの特性に特化した教具という道具です。教具は、こどもがあるひとつの特性にフォーカスできるような作りになっているのが特徴で、感覚教育で使用される教具は、長さや重さ、大きさ、質感などの何か一つの特性に特化しています。

たとえば「長さの違い」に特化した「赤い棒」という教具は、色や形状はまったく同じで「長さ」だけが異なった作りになっています。そのため、この教具を見て触ることで、こどもは「長い」「短い」という概念を、感覚を通し具体的に体得していくことができるのです。

こどもはこうした具体物に何度も触れて活動をすることで、「軽い重い」「小さい大きい」といった世界の基本的な情報(概念)を理解していきます。具体物を通した感覚的な理解こそが、抽象概念を認識していく基礎につながります。

言語教育

メタルインセッツ

こどもは、自分がいる環境にある言語に繰り返し触れることで言語を獲得していきます。生まれた時は持ち合わせていなかった言語を、環境に触れながら徐々に自分の一部にしていきます。

モンテッソーリ教育では、こどもの興味関心や発達段階に合わせ、「話し言葉」に始まり、「書き言葉」や「読み言葉」といった言語の獲得ができるようサポートします。実際には、カードやレプリカを使用したり、「動く」ことで具体的に言語を認識したり、文法を具体物を通して感じたりなど目的に応じてステップバイステップで活動を楽しみます。

注意したいのは、「言語の獲得=文字の読み書きができる」だけではないということです。モンテッソーリ教育が乳幼児期の語学発達で目指すのは「トータルリーディング(統合的読み)」という力。これは、語彙力や文法力だけでなく、言葉が内包する意味や行間など「間(ま)」の感覚の理解も含む、総合的な言語の読解力を指しています。

数教育

計算板

数教育というと「足し算や引き算ができること」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その目的は決して「計算ができるようになること」ではありません。モンテッソーリ教育の数教育では、こどもが数に興味を持ち始める時期に数字が意味する具体的な量を体感すること、そしてその上で数を理解することをサポートしていきます。

そのために必要だとされるのは、算数の法則を教え込むことでも暗記させることでもなく、具体物(教具)を使い数の概念を体得することです。モンテッソーリ教育では、教具を使い、こどもが十進法や四則計算の原則を体得することをサポートしていきます。具体物を通して得た数的概念を基礎に、その後の抽象的思考の体得につなげていくことができるのです。

文化教育

文化教育では、地理、地学、社会、宗教、生物、自然観察、美術や音楽など、理科や社会科、そして芸術科に及ぶ「世界で起きている幅広い事柄」を扱います。

一般的な教育では「知識」として学ぶことが多い分野かもしれませんが、モンテッソーリ教育では、文化教育もこどもの知的好奇心や欲求に従って活動が行われます。「身近な事柄」として体験、体感することで「文化」として獲得していくことを目指します。

モンテッソーリ教育の「教具」とは

モンテッソーリ教育に興味をお持ちのみなさんは、「教具」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。教具とはモンテッソーリ教育で使用される道具のことです。中には、「こどもが教具を使って活動をすること=モンテッソーリ教育の実践」と捉えられている方もいるかもしれません。しかし、教具はあくまで「こどもの発達を助ける」ための、モンテッソーリ教育のひとつの要素です。

モンテッソーリ教育を実践する上で何より大切なのは、モンテッソーリ教育の目的や理念を理解し、その考え方を日々のこどもとのかかわりに活かしていくこと。そして、こどもを観察して、いまのこどもに適した環境を整えることです。

ここでは、モンテッソーリ教育の教具の特徴や目的を見ていきましょう。

教具にはどんな特徴がある?

ピンクタワー

モンテッソーリ教育の教具は、一般的な玩具と異なり、こどもの成長に応じて発達を促すという目的を持っています。そのため、活動に合わせある特定の目的に絞って作られている、もしくはそれぞれの活動には必ず目的があるという特徴があります。

特に感覚教育で用いられる教具は、限定した「ひとつの特性」に沿って作られています。たとえば、立方体の大きさを感じる教具「ピンクタワー」は、こどもが「大きさ」という「ひとつの特性」にフォーカスできるよう、色と形は同様に、大きさだけが異なって作られています。その他にも、感覚教育の項で触れた「赤い棒」という教具は、「長さの違い」だけに焦点を置いているものだとご紹介しました。

一般的な玩具の中には、「見る、押す、聴く…」などいくつもの特性を兼ね備えているものもありますが、教具はこの点で大きく特徴が異なることがわかります。

教具を使う理由とは?

地球儀

それでは、モンテッソーリ教育ではなぜ教具を使用するのでしょうか。

それは、よりこどもの発達を助けるためです。あらゆることを環境から吸収し、その吸収したことと元に人格形成をしているこども。その際に、こどものやりたいこと、知りたいことにより特化し、注目が集められるような教具があることで、こどもはより集中して取り組み、具体的に自分の中に取り入れていくことができます。

「発達を助ける」とは、こどもの内側から出る「やりたい!」「知りたい!」という欲求を叶え、発達段階ごとに「できる」よう実現のお手伝いをすることです。モンテッソーリ教育では、その役割を担う大人(人的環境)の存在だけでなく、教具を含む物的な環境を整えることで、こどもの発達をサポートしていきます。

今のこどもの欲求や発達に見合った活動や教具が環境にあり、こどもはそれを自己選択して、満足するまで経験することで、自分をつくっていきます。

モンテッソーリ教育の生みの親、マリア・モンテッソーリ

maria montessori
Doctor Maria Montessori (1870-1952) Italiaans pedagoog en arts

マリア・モンテッソーリは、1870年8月31日、イタリアのキアラヴァッレという小さな町に生まれました。まだ社会全体が男性中心的で女性が地位を獲得することが困難だった時代に医学の道へ進み、1896年、イタリア初の女性医師のひとりとなります。

ローマの精神病院に勤務し始めたマリア・モンテッソーリは、療育研究を通し、こどもの感覚的欲求を刺激する「感覚教育」の効果を発見。1907年には、ローマのスラム街で貧困層のこどもたちを集めた保育施設「子どもの家」を開設し、ここで独自の教育法、モンテッソーリ教育を確立します。

その後、ヨーロッパやアメリカを中心にモンテッソーリ教育の研修会や講演会を開催、さらには教育についての執筆活動も開始したマリア・モンテッソーリは、ついに医療の道を諦め、教育活動に専念することにします。こうした積極的な活動に加え、「医学者の研究に基づく科学的な教育法」という説得力も手伝い、モンテッソーリ教育は徐々に世界へ広がっていきました。

お仕事をする子ども
「お仕事」をするこども

しかし実際、彼女が生きた時代は厳しく、社会的性差だけでなく、ファシズムや戦争など多くの困難がつきまといました。イタリアのムッソリーニ政権やドイツのナチスによるモンテッソーリ教育の弾圧、そして世界大戦などの影響から、彼女はヨーロッパを離れることを余儀なくされ、終戦までの7年間をインドで過ごすことになります。こうした時代を生き抜いたからこそ、マリア・モンテッソーリは「教育の力により社会は整い、平和につながる」と平和教育の大切さも訴え続けました。

戦後、晩年の拠点オランダに戻ったマリア・モンテッソーリは、1952年5月6日、81歳で亡くなる前年までひたむきに教育活動を続けます。マリア・モンテッソーリが息子マリオ・モンテッソーリとともに1929年に設立した国際モンテッソーリ協会(AMI)は、今なお彼女の意思を引き継ぎ、オランダを基点に世界中でモンテッソーリ教育の実践と普及に努めています。

モンテッソーリ教育にもデメリットがある?

モンテッソーリ教育

日本でも広くその名が知られるようになったモンテッソーリ教育ですが、「自由」というイメージが先行し、モンテッソーリ教育を受けることに対し不安の声を耳にすることも少なくありません。

具体的には、デメリットに対してこのような声が聞かれます。

  • こども主体の教育では、協調性が育まれないのでは?
  • 活発なこどもには合わないのでは?
  • 知育やお受験のためにする教育なのでは?
  • 集団生活になじめないこどもになるのでは?
  • うちのこどもの性格には向かないのでは?

こうした疑問にまずとても簡単にお答えさせていただくのであれば、答えはすべて「No」です。モンテッソーリ教育とはどのような教育なのか、歴史や目指すところなども含め、ここまでのページを読んでいただくと分かる通り、モンテッソーリ教育は世界中のすべてのこどもに対して開かれた教育法であり、こどものタイプを限定するものではありません

また、「こども主体=何でも無秩序にできる」ということでも決してありません。モンテッソーリ教育が実践される環境では、安心と安全が担保され、こどもたちが心地よく過ごすためのルール(制限)が必ず設けられています。こども主体の教育とは、こうした制限の中で、限りなく主体的に活動を行う「自由」が保障されているということなのです。この「自由」が保障された環境で、こどもたちは自然と自分(個)を育み、さらに社会性を発達させていくことができるのです。

上記のいくつかのご質問に対する詳しい理由などは、こちらの記事でご紹介をしていますので、ぜひ併せてお読みくださいね。

モンテッソーリ教育についてもっと知りたいという方へ

ここまでお読みいただく中で、「モンテッソーリ教育について初めて知ることがあった!」「モンテッソーリ教育に対してさらに興味が湧いた」という方もいるかもしれません。

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モンテッソーリ教師の資格

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この記事を書いた人
モンテッソーリペアレンツ
Montessori Parents

子育てに必要なモンテッソーリ教育のマインドや子どもへのかかわりを体系的に学び、あなたらしい「しなやかな子育ての軸」を育むためのオンラインスクールの運営を行っています。

この記事の監修者
モンテッソーリ教師あきえ
モンテッソーリ教師あきえ
国際モンテッソーリ協会(AMI)ディプロマ / 保育士 / 幼稚園教諭 / 小学校教諭

Montessori Parentsファウンダー兼講師。公立の幼稚園教諭をしていた頃、日本の一斉教育に疑問を抱きモンテッソーリ教師に。現在は「子どもが尊重される社会」を目指して、モンテッソーリ教育に沿った子どもや子育てについての発信を行ってます。

▼著書
「モンテッソーリ教育が教えてくれた『信じる』子育て」(すばる舎)
「モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック」(宝島社)

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