モンテッソーリ子育て、家庭の「心理的安全性」がこどもの育ちに必要な理由
泣く、怒る、癇癪を起こす。子育てをしていると、さまざまな感情を見せるこどもに対し、疲れやストレスを感じてしまうこともありますよね。しかしそんなこどもの姿は、実は「自分が無条件で受け入れてもらえる」という安心の証なのです。このような自分のありのままの姿を受け入れられてもらえると感じられる状態を、心理的安全性という言葉で表現することがあります。
心理的安全性が保障された家庭環境は、こどもの育ちには必要不可欠なもの。今回は、家庭におけるこどもの心理的安全性についてご紹介します。
こどもにとって家庭とは
こどもにとって家庭は、生まれて最初に経験する「小さな社会」。初めて所属するコミュニティであり、欠かすことができない場所です。
その家庭という場所で大切なのは、こどもが心から「ここは安心安全だ」と思えること。自分を認めてもらえる場所がある、心からくつろげる場所がある。その場所があるからこそ、こどもは自己肯定感を育むことができ、何かに「チャレンジしたい」という気持ちを持つことができます。
それでは、こどもが本当に安心できる家庭環境とはどのようなものでしょう。そこにはまず、身体的な安心安全が担保されているという前提があります。安全に暮らせる家がある。食べるものや着るものが十分にある。愛されていると感じることができる。暴力を振るわれていない。今回は、こうした最低限の条件はあると仮定した上で考慮したい、心理的安全性について考えていきましょう。
心理的安全性って何?
心理的安全性とは、英語の「psychological safety」に由来する言葉。職場や家庭など組織の中で、誰に対しても自分の考えや気持ちを安心して伝えられる状態を指します。
それでは、家庭におけるこどもの心理的安全性を保障するためにはどのような条件が必要でしょうか。特に考慮したいのはこの3点です。
こうした条件がこどもの心理的安全性につながる理由を見ていきましょう。
心理的安全性がこどもに与える影響
大人でも、調子が優れない時は感情的になってしまうことがありますよね。感情をコントロールする力、すなわち自律の力を育んでいる最中のこどもであればそれはなおのこと。疲れていたり嫌なことがあると、ぐずる、癇癪を起こす、甘えるといった反応を見せることがあります。
しかしこどもがこのような姿を見せてくれるのは、自分をさらけ出すことができている証。調子がいい時だけ周囲の大人の機嫌がいいのではなく、失敗しても受け入れてもらえる。無条件で自分を尊重してもらえる。愛されているという実感を得ることができる。
「家庭というコミュニティが、どんな自分も受け入れてくれる」という安心感。それはこどもの、何事にも好奇心をもって挑戦する自信へとつながっていきます。家庭での心理的安全性が保障されていることは、こどもの成長に必要不可欠なのです。
心理的安全性を保つためにできること
それでは、こどもにとって家庭が心理的安全性の高い場所であり続けるために、私たちにできることはなんでしょう。それは、無条件にこどもを信頼し尊重するということです。と言っても、これはとても抽象的な概念。具体的にどのような行動に落とし込むことができるのか見ていきましょう。
1. 大人自身が自律の力を持つ
怒りや悲しみ、寂しさ。感情を素直に表現することは、大人にとってももちろん大切です。しかし一方で、大人がネガティブな感情をコントロールできず、家族やこどもに対しイライラをぶつけてしまう。こうしたことが頻発してくると、こどもは安心することができません。
「感情をコントロールする」ことは「感情に蓋をする」ことではありません。自分の感情を俯瞰し、自分の機嫌を自分で取れること。自分をいい状態に持っていくすべを知っていること。こどもの高い心理的安全性を保つためには、大人自身がそんな「自律の力」を持っていることが大切なのです。
2. こどもをひとりの人間として対等に扱う
たとえば何かを決める時、選択肢を与えてこども自身が選べるようにしてあげる。こどもが話す言葉にしっかり耳を傾けて聞く。その上で「これが嫌だったんだね」と気持ちを受け止める。
「ひとりの人間として対等に扱う」と聞くと難しく感じる方もいるかもしれません。しかしこうした日常の些細なやりとりから、こどもは尊重してもらえていると感じることができます。その実感は、こどもの心理的安全性を確実に高めてくれる要素なのです。
3. 家庭におけるこどもの役割を作る
家庭におけるこどもの役割を作るというのもおすすめです。配膳をする、テーブルを拭く、植物の水やり。家族の一員として役割を務めることで、「役に立っている」と貢献感を持て、所属意識や自分の存在意義の実感につながっていきます。それはめぐりめぐって、心理的安全性の高さにもつながっていくのです。
4. 家庭ならではのケアをする
こどもたちは、園や学校など家庭以外の場でもさまざまなことを経験しています。初めての出来事に、疲れや不安を強く感じる日もあるでしょう。自分でできることも助けを要求するなど、いつも以上に甘えたりぐずる姿を見せることがあるかもしれません。
そんな時は、家庭だからこそできるケアをきちんとしてあげたいものです。たとえば学校行事を控えた時期であれば、まず「こどもがいつもとは違う姿を見せるかもしれない」と予測することができます。その中で、お子さんの努力や行動、がんばりなどを認めること。さらに、いつも以上に甘えさせてあげるなど、家庭が「完璧な自分でいなくてもいい場所」であり、「疲れた、甘えたい」という思いを表現できる場所だと示してあげましょう。
心理的安全性が保障されていないと
言葉や暴力で心身を傷つけられる。自分の話を無視される機会が多い。頻繁に否定的な言葉をかけられる。失敗を責められる。
このように自分を否定される状況が続くと、こどもは徐々に感情をさらけ出すことができなくなっていきます。「自分は受け入れてもらえない」「ありのままの姿を出してはいけない」と学んでいってしまうのです。
すると何かにチャレンジする気持ちが起こらず、家が「いつも完璧でいなくてはいけない場所」になってしまいます。その分、学校などで甘える姿を見せるようになるということも起こり得ます。心理的安全性が保障されていない状況では、こうしたリスクが生じる可能性があるのです。
まとめ
「なんでこんなにぐずるんだろう」
「自分でできることは自分でしてよ!」
「何がいけないんだろう」
こどもが感情をぶつけてきたり甘えた姿を見せると、ついネガティブな思いを抱いてしまうことがあります。しかしそれはこどもが「自分を無条件で受け入れてくれる」と感じられるからこそ。
少し俯瞰して見ると、「この子にとって安心できる場所を提供できている」とご自身を認める機会にもなるかと思います。ぜひそんなまなざしを持ちながら、お子さんとかかわってみてください。癇癪を起こした時の対応などについては、こちらの記事もご参考にしてみてくださいね。
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フランス在住ライター。教育、語学、旅、文化などについて執筆。日英翻訳も行う。大学卒業後渡英、ロンドンでライター活動を開始。その後日本で英会話講師や編集業を経たのち、インターナショナルスクールで5年間幼児教育に携わる。現在は、フランス南西の街トゥールーズで、日本にルーツを持つ幼児たちに日本語教育も行っている。