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【北欧インタビュー】第3回 フィンランドのモンテッソーリ園「みんな違って、みんな美しい」モンテッソーリ教師フランチェスカ・シッポラさん

公開日:

モンテッソーリペアレンツファウンダーであるモンテッソーリ教師あきえが、「こどもが尊重された社会」を視察するべく実現した、3週間の北欧滞在。本シリーズでは、スウェーデンとフィンランド2カ国の滞在中に行った、教育関係者の方々へのインタビューをお届けします。

最終回の今回は、フィンランドのモンテッソーリ保育園「Pilke Maria Montessori」副園長のフランチェスカ・シッポラさんのインタビューです。実際に保育園を訪問させていただき、AMIモンテッソーリ教師(※1)でもあるフランチェスカさんに、フィンランドでモンテッソーリ教育を実践する上で日々感じられていることなどについて伺いました。

(※1)国際モンテッソーリ協会(Association Montessori Intrnationale =AMI)が発行する教員資格を保有する者。

プロフィール
フランチェスカ・シッポラさん

ご職業:モンテッソーリ教師(3〜6歳クラスレベル)、教育者。現在は、フィンランドヘルシンキ郊外のモンテッソーリスクール「Pilke Maria Montessori」で副園長を務める。
お住まい:フィンランド
お子さま:3人

プロフィール
モンテッソーリ教師あきえさん

国際モンテッソーリ教師、保育士
「こどもが尊重される社会をつくる」ことをビジョンに、子育てのためのオンラインスクール「モンテッソーリペアレンツ」ファウンダー、ベビーブランド「mu ne me」運営、オンラインコミュニティ「Park」運営を行う。
プライベートでは二児の母(7歳,1歳)

時代や実情に合わせながら、モンテッソーリ教育を実践する難しさ

あきえ:まずはこちらの園に在籍するお子さんたちについて、また園として大切にされていることを教えてください。

フランチェスカ:私たちの保育園には、現在、2歳半〜6歳のこどもたちが22名在籍しています。フィンランドをはじめ、ロシア、中国、インド、ルーマニア、イタリア、ウクライナなどさまざまなバックグラウンドを持つこどもたちです。

園としてはこどものウェルビーイングを一番に考えており、こどもが安全だと感じる環境づくりやこどもが発見するおもしろさ、そして保護者の方々とのコミュニケーションを大切にしています。

あきえ:日本では、モンテッソーリ教育の要素を部分的に取り入れる園が数多くある一方、完全なモンテッソーリ園はまだまだ少ないというのが現状です。フィンランドではいかがですか?

フランチェスカ:人口が増えているこの地域には、現在、当園の他に2つのモンテッソーリ園があります。完全なモンテッソーリ園の実現は、フィンランドでも容易なことではありません。先生の研修や教具(※2)、教材の準備にかかる費用、労力などの観点から見ても大変なことですよね。

実際、コロナ禍では多くの園が存続の危機に直面しました。私たちの園は、企業の買収を受け運営を継続することができましたが、こうした経緯があるからこそ「(ビジネス的視点が強くなってしまい)教育学的な視点が崩れてしまわないようにする」という点は特に大切にしています。

(※2)モンテッソーリ教育で使われる道具のこと。一般的な玩具と異なり、こどもの敏感期や成長に応じ発達を促すため、目的をひとつに絞って作られているという特徴がある。

あきえ:時代や時勢に合わせ、教育者も変化していかなければいけないという考え方もあると思いますが、いかがですか?

フランチェスカ:はい、教育は時代に合わせて適応させていくものです。たとえば、フィンランドの保育園では活動にタブレットを取り入れることが一般化しています。当園でもみんなで一台を共有していますが、あくまで「目的のために使うもの」という意識を持つことが必要ですね。

最近は(現代の大人の忙しさに伴い、)こどもたちの暮らしがどんどん忙しくなっていると感じることもあります。こどもがふだんと少し異なる様子を見せても、「保育園に預けよう」という姿勢の保護者の方々も少なくありません。

あきえ:その他、日々保育を実践される上で感じられる難しさはありますか?

フランチェスカ:当園には特別支援の対象となるお子さんがひとりいますが、園に特別支援教諭がおらず、日々難しさを感じています。市に援助を求めるも、特別支援保育園ではない上、私立園であるという理由から、希望する援助を受けられずにいました。

しかし私立とは言え、この園を利用しているのは一般市民。「市が援助すべきだ」という声が上がり、「市の公務員である特別支援教諭が来園し、こどもと教員の様子を観察してアドバイスする」という援助を受けられることになりました。ただ実際は、市教諭が配属されるまで長い時間を要します。私たちも半年間待ち続けている状態です。

あきえ:さまざまな実情の中、モンテッソーリ教育を忠実に実践していくというのは決して簡単なことではありませんよね。

フランチェスカ:そうですね。フィンランドの保育施設では、3歳児以上の場合、こども7人に対し先生がひとりつくことが定められています。モンテッソーリ園であれば本来は教員全員がモンテッソーリ資格を保有しているべきですが、モンテッソーリ教師だけでなく、保育士を探すこと自体難しいという現実があります。

「個を尊重する」という考え方が根付くフィンランドの文化

あきえ:フランチェスカさんはなぜモンテッソーリ教師になられたのですか?

フランチェスカ:イタリアからフィンランドに移り、当時4歳だった長女が最初に通ったのがモンテッソーリ園でした。多様な視点で物事を学べる園の環境に興味を持ち、自らモンテッソーリ教育について勉強し始めました。さまざまなことに関心を持ちながら育っていくわが子たちの姿を見て、モンテッソーリ教育にすっかり魅了され、最終的にモンテッソーリ教師資格を取得するに至りました。フィンランドに来る前は、児童養護施設などで働いていたんですよ。

あきえ:フィンランドの一般的な教育とモンテッソーリ教育の共通点、また異なる点は何でしょうか?

フランチェスカ「個を尊重する」というのは、双方に共通する考え方です。

フィンランドの文化には、「みんな違う」「個を大切にする」という考えが根付いていると思います。
一方、大きな違いは環境の整え方ですね。モンテッソーリ園にはすでに自己選択できる環境があります。一般的な園のように「今日はこの活動をしよう」ということではなく、こどもから関心が生まれ、それを一緒に発展させていくという環境です。

あきえ:モンテッソーリ教育では「こどもと環境を結びつけるのが大人の役割」だと考えられていますが、フランチェスカさんはこどもたちに提供(※3)する際、どのようなことを意識していますか?

フランチェスカ:こども一人ひとりを観察し、その子のニーズや関心のありかを察知するよう努めています。特にこの園に通うのは、さまざまな国からやってきた異なる文化背景持つこどもたち。すでに2カ国以上を移り住んだ経験を持つ子もいれば、3〜4言語を駆使する子、文化が入り混じる家庭に育つ子もいます。こどもにより気をつける部分は異なりますから、まずはよく観察することが大切ですね。

(※3)活動の目的に適うよう、使い方や活動の仕方をこどもにやって見せることをモンテッソーリ教育で「提供」と呼ぶ。

未来の世界をつくっていく、美しきこどもたち

あきえ:プロフェッショナルとして、日々どんなことに仕事へのモチベーションを見出していらっしゃいますか?

フランチェスカ:朝起きた時の「元気で目覚めがいい」という感覚は大切にしています。こどもと接していると美しいものがたくさん見えてきますし、それが私の仕事のモチベーションでもあります。一緒に働くチームメンバーも大事な要素ですね。

あきえ:副園長という立場ならではの困難もあることと思いますが、職務を行う上で意識されていることはありますか?

フランチェスカ:人や園をマネージメントする立場として、つねに自分自身を振り返る必要があると思っています。自分の価値や教育への思いを明確にするということですね。

職場の人間関係を維持していくというのは実に大変な仕事です。みんながいつも同じモチベーションで仕事をしているわけではありませんから。まずはその人を理解しようとすることが必要ですが、同時にソフトになりすぎてもいけません。そのバランスが難しいですが、仕事をいただいているプロフェッショナルとして、自分たちの責務をしっかり意識しなければいけないと考えています。

あきえ:最後に、フランチェスカさんの教育者としての願いを教えてください。

フランチェスカみんなが違う美しさを持ち、みんなが美しい。世界を作っていくのは、この小さな一人ひとりのこどもたちです。だからこそ、美しく健やかに育ってほしいなと願っています。

小さな保育園ですが、今日は来てくださり、そして同じ教育者として「ファミリー」という意識を得ていただき本当にありがとうございました。

まとめ

あきえ

今回、フランチェスカさんのお話をお聞きし、言葉の一つ一つ、そして表情やまなざしからこどもへの大きな愛情と無条件の「信じる気持ち」をひしひしと感じました。決して容易ではないけれども、プロフェッショナルとして未来のこどものためにと日々向き合うフランチェスカさんのお姿からから深いエネルギーとインスピレーションを受けました。フランチスカさん、ありがとうございました!

スウェーデンとフィンランドの2カ国で行われた全3回の北欧インタビュー、いかがでしたでしょうか。北欧に生きる3名の教育者の方々のお話が、みなさんが何かを考えるきっかけになれば幸いです。

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この記事を書いた人
Mariko Dedap
ライター / 保育士 / 中高美術教諭

フランス在住ライター。教育、語学、旅、文化などについて執筆。日英翻訳も行う。大学卒業後渡英、ロンドンでライター活動を開始。その後日本で英会話講師や編集業を経たのち、インターナショナルスクールで5年間幼児教育に携わる。現在は、フランス南西の街トゥールーズで、日本にルーツを持つ幼児たちに日本語教育も行っている。

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